取り越し苦労をする理由
取り越し苦労を克服することが良いことのように言われていますが、必ずしもそうではありません。
そもそも取り越し苦労をするのは、頭が良い証拠でもあります。
これから先に起こることであろう出来事に対して、しっかりと頭の中でシミュレーション出来るからこそ、その出来事で起こりうる結果を現在に感じ取っています。
これ自体は決して悪いことはありません。
まずはこれを理解してください。全く取り越し苦労できない方が危険です。
取り越し苦労は進化の証
もし全く取り越し苦労できない人がいるとすれば、その人は生き残ることが難しいです。
信号が赤でも平気で進入してしまうかも知れません。
「きっと車が止まってくれるよ」
と楽観的に捉えるかも知れません。
これはかなり極端な例ですが、先の事を全く考えられない人はリスクと遭遇しやすくなります。
昔の人類は現在よりもずっと多くのリスクがありました。食べ物を求めて森に足を踏み入れた時に、猛獣と遭遇することもあったはずです。
「猛獣なんて滅多に遭遇しないよー」
と楽観的に森に入っていった人達は生き残れません。いずれ襲われてしまいます。
現在生き残っている人類というのは、猛獣との遭遇(リスク)に備えて行動出来た人達の子孫です。
猛獣が活動する時間帯を避けたり、武器や防具で備えたり、複数人で行動したり、周囲に目を光らせながら狩りを行ってきました。
過去の狩りの経験を元に様々なリスクを想定して行動してきた人達が、私たちの先祖です。
頭の中で「様々なリスクを想定できる」ということこそが、取り越し苦労をする理由です。これ自体は決して悪いことではありません。
取り越し苦労があったからこそ、人類は進化してきました。
頭の中で先のことを想定する能力が磨かれたからこそ、農業が発達していきました。先のことを考えられない多くの動物は、目の前にある食べ物を土の中に埋めて育てることなど出来ません。
取り越し苦労そのものは恥じることではありません。また克服するものでもありません。
もし克服できてしまうと、先のことを考えずに今だけを生きる人になってしまいます。周囲の人にとって大変迷惑な人になってしまいます。
わかりやすいのはギャンブルにどっぷりとハマっているような人です。冷静に物事を判断することが出来なくなってしまいます。節約に失敗する方も同じです。頭の中で先の事を考えられません。
取り越し苦労との上手な付き合い方
取り越し苦労は克服しようとするのではなく、上手に付き合うことが重要です。
まずは取り越し苦労をしている自分を褒めてあげてください。
取り越し苦労をしている時というのは頭を使えている状態です。進化してきた人類の素晴らしい能力を、しっかりと発揮できています。
知識も経験も少ない子供の頃というのは先の事まで考えて行動は出来ませんが、様々な知識、経験を経て成長してきたからこそ、未来に起こりうる出来事をイメージできるようになりました。
いたって順調です。全く問題ありません。
「未来の事を想像して、いま不安になるなんて凄いなぁ」
と自分を褒めてあげると、その先に進むことが出来ます。
取り越し苦労で不安になったままだと、その出来事が訪れるまでずっと不安を抱えたままになってしまいますが、自分で褒めてあげると不安感が一気に和らぎます。
「試験に落ちたらどうしよう・・・」
と不安になっていた時に、自分を褒めてあげて冷静さを取り戻すことが出来れば、
「そうか、このままでは試験に落ちると感じているのだな。どこに不安を感じているのだろう?」
と不安の正体を見極められるようになります。すると苦手なポイントが明確になり、しっかりと対策をすることができます。
「怒らせちゃったかなぁ、今度会ったら気まずいなー」
と人間関係で不安を感じた場合は、怒らせてしまったことに気がついた自分をまず褒めてください。
「よく気がついたわ、流石わたし!」
と褒めてあげると、不安感がスーッと和らぎます。すると、
「あの指摘で怒らせたのかな?それともあそこかな?」
と不安になってしまった原因が明確になっていきます。いくつか想定しておくことで、次に会った時に万全を期すことが出来ます。
これが取り越し苦労との上手な付き合い方です。
不安を抱えたままだと冷静に物事を判断できませんが、不安を感じ取った自分の能力を褒めてあげると、不安感は一気に和らぎます。すると解決策や対処法、備えが見えてくるようになります。
そもそも不安な状態というのは解決策が見つからない時に起こるものです。直ぐに解決策なり対処法が見つかる出来事であれば、そもそも不安にはなりません。
知識や経験が乏しい新人の頃というのは些細なことで不安になるものですが、様々な経験を積んで成長することで、不安になることは少なくなっていきます。
ただ答えのわからない出来事に遭遇するからこそ、そこで人は新たな事を学んで成長していきます。
だからこそ、自分を褒めてください。
自分を褒めるメリット
自分を褒めてあげると不安が和らぐ理由は、不安な自分を客観視できるようになるからです。
自分で自分を褒めるという行為は、不安な状態の自分(A)を、もう一人の自分(A´)が褒めることです。
「いやいやよく気づいたね、頑張っているよ、流石だね!」
と褒めてあげた時点で、自分の人格は不安な状態の(A)から(A´)へ移っています。
(A´)は不安な状態の自分を客観視しているので、それほど不安は感じません。他人ごとのように感じられます。
冷静に物事を判断できる状態なので、経験豊かな先輩が不安な状態の後輩に優しくアドバイスするかのように、いとも簡単に対処法を見つけることが出来ます。
取り越し苦労をして不安になっている自分を褒めてあげてください。それだけで不安感が和らいで対処法を見つけやすくなります。
まとめ 付き合い方次第
取り越し苦労をしている時というのは答えがわからないから不安になっています。まさに成長している最中です。これ自体は素晴らしいことなので、大いに自分を褒めてあげてください。
人は不安な状態だと冷静に物事を判断することなど出来ません。
強盗に出くわして頭に拳銃を突き付けられると、普通は冷静さを保つことなど出来ません。強盗の言いなりになってしまいます。
ですが、何かの拍子で拳銃が偽物だと気がつけば、一気に冷静さを取り戻すことになります。
直接戦って勝つ見込みがある強盗であれば、直ぐに応戦するかも知れませんし、自分より強そうな強盗なら逃げだす経路を探した上で、タイミングを見計らうことが出来ます。
取り越し苦労をしている時に、自分を褒めてあげるのも同じようなことです。冷静さを取り戻すことで、最適な解決策を考えられるようになります。
びくびく怯えて不安なままでは強盗の拳銃がプラスチックの偽物でも見抜くことが出来ません。俯いていては脱出経路も見つけられません。
本当に強盗に出くわした時でも、もう一人の自分(A´)に語り掛けることが出来れば、冷静さを取り戻すことが出来ます。
「はは、俺の人生これで終わりかー。これといって何もない人生だったけど、最後は目立つことになったな~。ニュースになるかも!」
と、もう一人の自分に人格が移ると、恐怖を感じて不安になっている自分を客観視できるようになります。すると冷静に目の前の拳銃を見つめることが出来るようになるかも知れません。
これは極端な例ですが、誰でも職場の人格と親しい人と会う時の人格では違うと思います。表の顔と裏の顔があるものです。
「何言ってたんだコイツ!頭おかしいんじゃないの?」
と心の中で毒づいている時のいうのは、(A)から(A´)へ移っています。これぐらいなら誰もが経験しているのではないでしょうか。
小さな子供と接するときなどは、相手のレベルに合わせて人格を変えるものです。ゆっくりと話したり、わかりやすい言葉を選びますが、心の中まで子供言葉になるわけではありません。現実の自分と頭の中の自分を切り離すのは難しいことではありません。
取り越し苦労をして不安を感じている時も、もう一人の自分に人格を移すことは、それほど難しいことではありません。自分で自分を褒めてあげればスッと移行できます。
「取り越し苦労をしてはダメだ!」
と否定するよりも、
「頭いいなオレ、そんな先のことまで考えられるんだ。流石だな!」
と褒めてあげた方が、ずっとスムーズに冷静さを取り戻すことが出来ます。
取り越し苦労を無理やり克服しようとするのではなく、自分を褒めながら上手に付き合っていってください。