舌が肥えると不幸?
「舌(口)が肥える」とは、主に美食家の事を指す慣用句の事です。
料理の味の良しあしがわかり、こだわりが強くなる様を表しています。
誰だって好きな分野、趣味のようなものであれば、何かしらのこだわりが生まれていくものですが、生活に直接関係のないジャンルであれば、予算の範囲内で楽しむ分にはそれほど問題になりません。
仮に収入が減ったとしても、楽しみが減るだけです。
一方で衣食住のような生活に直結する分野で舌が肥えてしまうと、楽しみが減るだけでなく苦痛まで伴ってしまいます。
食事が一番わかりやすいのですが、仕方がなく食費を節約することになると、食事の度に不満を感じてしまいます。
普段の食事と趣味の食べ歩きを分けている人であれば、食べ歩きの頻度だけが下がり、特別な日の楽しみが減るだけですが、日頃の食事にまで強いこだわりを持ってしまうと、極端な節約で質を落とすと苦しみが伴ってしまいます。
「舌が肥える」事が必ずしも悪いわけではありませんが、衣食住のように生活に直結している分野で肥えてしまうと、どんどん固定費として積み重なっていき、生活費を圧迫して不幸を招いてしまいます。
そうならない為にも「舌を肥えさせ過ぎないようにコントロールする」事が大切です。あえて質を上げない、楽しみを取っておくといった発想をもつと、ここぞという時に堪能する事ができるようになります。
舌の肥えをコントロールしよう
食事に限らず、生活に必要なジャンルで舌が肥え過ぎないようにするコントロールするポイントは、幸せの本質を知ることです。
実は幸せの本質というのは、不幸の上に成り立っています。
基本的に人が幸せを感じる瞬間というのは不幸を感じている時です。その不幸(不満や痛みや悲しみや苦痛など)が和らいだ時に、人は幸せを感じるように出来ています。
そもそも不幸がなければ、幸せは感じられません。
いくつか例をあげると、
- 喉が渇いていると、水が美味しく感じられます。
- 寒さを感じていると、暖房で温まると幸せを感じます。
- 汗でべたついて臭くなると、お風呂に入るとスッキリします。
どれも不幸な状態を感じていたからこそ、その状態を改善することで幸せを感じることが出来ます。
喉が渇いていなければ、どんなに高級なミネラルウォーターでも美味しく感じられません。
気持ちの良い適温の部屋で暖房をつけると、不快になってしまいます。
仕事帰りにプールで泳いでシャワーを浴びて帰宅すると、その日はお風呂に入りたくないかも知れません。
幸せは不幸なしでは感じることが出来ないということです。
もう少し例えてみましょうか。
高級マンションなどで一年中快適な室温に管理されていると、エアコンの気持ちよさや扇風機の涼しさや暖房の温もりを感じて幸せになることがなくなります。
昔の学生の部活動は水を飲むことが禁止されていたので、部活終わりの水道水がとんでもなく美味しいものでしたが、現在の部活動はこまめに水分を補給するのが当たり前になっているので、とんでもない美味しさは感じられません。
温泉街に住んでいると、社員旅行で温泉に行っても感動は少ないものです。
山に囲まれた盆地で育った人は、久しぶりに海に行くとテンションが上がりますが、海沿いに住んでいる人だと何も感じません。
イケメンや美人というのは、その気になれば簡単に相手が見つかるのかも知れませんが、モテない人が必死に努力を重ね、やっとの想いで好きな人とデートに行けることになると、とんでもない幸せ感を得ているものです。
同じように様々な有名レストランを食べ歩いて舌が肥えている美食家ほど、料理で感動する事がありません。
「これは美味しい!」
と感動して幸せを感じるのは、数年に一度ぐらいかも知れません。
料理人の男性は自宅では一切料理をせずに奥さん任せにしているものですが、本当に美味しい食材や調理法を知っているだけに、満足する事などありません。
一方で質素な生活をおくっている家庭が、給料日にだけ行く焼き肉のバイキングや100円回転ずしであれば、確実に毎月幸せを感じることが出来ます。
刑務所で薄味の冷めた料理ばかりを長年食べてきた人は、出所して暖かいご飯を食べると感動するといいます。
美食家が久しぶりに最高の料理を味わった時の脳内の幸せホルモンの量と、出所した人が普通の温かいご飯を食べた時に感じる脳内の幸せホルモンの量は、おそらく後者の方が多いのではないでしょうか。
幸せの本質とは、不幸な状態との差によって決まります。
この不幸な状態を改善してしまうと、幸せを感じる機会も無くなってしまいます。これが舌が肥えるほどに幸せを感じられなくなる理由です。
この不幸な状態(不便な状態)を適度に残しておくことこそが、舌を肥えさせ過ぎないコントロールということになります。
あくまでも程度問題なのですが、あえて完璧に改善してしまわない事が重要です。
長い通勤時間が不満だった場合、職場の直ぐ横に引っ越すと不満は改善されますが、家賃が増えてその分の残業が必要になるかも知れませんし、運動不足といった新たな問題が生まれてしまうかも知れません。
舌が肥えている美食家のように、不満を解消しても常に新たな不満が出てきてしまいます。最高のサービスや調理法を知っているだけに、常に不満が付きまとってしまいます。
結局はどこで落ち着くかの問題です。
イケメンや美人でモテモテだった人ほど、最高の相手を知っているだけに、相手の粗が見えてしまいます。年老いてモテなくなってくるほど、相手に満足できなくなってしまうかも知れません。
学生時代に初めて付き合ったカップルが結婚すると、お互いに他の相手を知らないだけに比較する事もありません。
様々な異性と付き合ってきた人の方がベストパートナーに出合える可能性が高いのかも知れませんが、何から何まで完璧な人などいないように、知識や経験が増えるほどに、不満対象も増えてしまいます。
趣味のような世界で舌が肥えても満足する機会が少なくなるだけですが、生活に必要な分野で舌が肥えてしまうと、苦しくなる機会が増えてしまいます。
衣食住はほどほどに
私は冷蔵庫を手放しているのですが、北海道に住んでいることもあり、冬場になると玄関の近くが氷点下に近い温度になるので、冷蔵庫替わりになってくれます。
なので冬場になると夏場は購入できない「食べるラー油」を常備することが楽しみになっています。
これは私の中で冬場だけに許された楽しみの一つです。ここ5年ぐらい続いています。毎年のように、
「やっぱり美味しいなぁ~」
と感動しています。
おそらく冷蔵庫を持っていると、この幸せは感じられません。いつでも食べられるようになると飽きてしまいます。
冷蔵庫のなかった時代では、当たり前のように旬の食材や料理を楽しんでいましたが、現在は様々な食材が季節を選ばずに楽しめるようになってしまったので、逆に楽しみが無くなってしまいました。
私は田舎街で育ったのですが、中学生の頃に少し離れた都会にあるラーメン屋さんが大好きした。月に一度ぐらい家族で買い物に出かけると、そのラーメンを食べるのが最高の楽しみでした。
そして高校生になった頃、そのラーメン屋さんが、なんと故郷の田舎町にも出店してきました。
凄く嬉しくてさっそく行って食べて美味しかったのですが、いざいつでも行けるようになると、むしろ食べる頻度が下がってしまいました。
それまでは毎月のように食べていたのに、半年、一年と遠ざかるようになってしまいました。
これは自分の意志ではないので、舌が肥えるとは意味合いが少し違いますが、環境の変化によっても失われてしまう幸せがあるという事です。
幸せは簡単に満たせないからこそ感じることが出来ます。不幸なしで成り立つものではありません。
不幸(不便)な状態を改善してしまうと、幸せを感じる機会も少なくなってしまいます。
おそらく冷蔵や冷凍、保存の技術がなかった昔の方が、食事に関しては幸せを感じる機会が多かったのではないでしょうか。
その時期でしか食べられない旬のものを、最高に美味しい状態で食べられる幸せがあったはずです。他にも風邪をひいた時だけ食べられるバナナや、誕生日やクリスマスだけ食べられるケーキのようなご馳走といったものがあったわけです。
江戸時代の殿様が、涼しい山中の室で保管してあった氷を夏場に運ばせ、真夏にかき氷のようなものを食べるということは、とんでもない贅沢だったはずです。
現在でも本当に暑い夏の日に食べるかき氷は美味しいものですが、自宅でかき氷機を持っていて頻繁に食べていると、その感動は薄れてしまいます。
積極的に幸せに近づいてしまうと、どんどん遠ざかってしまい、いずれ失ってしまうかも知れません。
またまた私の例でいうと、昔の私はメロンが大好きだったのですが、高校三年生の夏休みに住み込みでアルバイトをした山小屋で、毎日のようにメロンを半玉食べる事になり、全く食べたくなくなってしまいました。
その山小屋の食堂では、八分の一にカットしたメロンが一日に1~2度注文される事が多く、カットしたメロンは日持ちしないので、その残りがバイトの私のところにやってきました。
初めは嬉しくてむしゃぶりついていたのですが、一週間後には飽き飽きとしてしまい、他の従業員の人達が食べたがらないのに納得したものです。
これらのように舌が肥えて過ぎてしまうと、楽しみの対象が失われてしまいます。衣食住のように生活に欠かせない要素で舌が肥えてしまうと、引くに引けなくなって不幸を招く事になってしまいます。
遠ざける事でやってくる幸せ
一方で舌を肥えさせないようにコントロールしていると、勝手に近づいてくる機会が増えていきます。
科学の進歩や企業努力のおかげで価格が下がり、誰もが気軽に手に入れられるようになります。
舌が肥えるほどに美味しいと感じる料理が遠ざかりますが、あえて舌を肥えさせないことで、美味しい料理が近づいてくる(コンビニでも買える)ようになります。
結局は脳内で気持ち良さを感じるホルモンが、どれだけ分泌されるかということなので、幸せを得る方法に正解はありません。
一般的な例でいうと、
徒歩⇒自転車⇒原付バイク⇒軽自動車⇒コンパクトカー⇒大衆セダン⇒高級セダン⇒高級外車
のように少しずつ成長していく事で、その度に幸せを感じられるようになるのですが、その幸せも当たり前になると感じられなくなります。
一方で移動は徒歩で十分と決めている人であれば、たまにバスや電車やタクシーに乗ると、快適さを感じることができます。自分の好きなタイミングで幸せを得やすくなるという事です。
高級外車に慣れてしまうと、新モデルが発売されて買い替える時ぐらいでしか幸せを感じる事が出来なくなってしまいます。
右肩上がりに収入が上がっていく時代であれば、その都度幸せを感じる対象もアップデートしていきますが、現在はそのような時代ではありません。
世間一般の常識といった基準ではなく、自分でどこに線を引くかが大切です。
その幸せを感じる線を日頃は超えないようにコントロールし、特別なタイミングだけ超えてみるのであれば、幸せを感じるタイミングもコントロールできるようになります。
ケーキを誕生日やクリスマスにだけしか食べられない家庭の子供であれば、一週間前から楽しみになるかも知れませんが、頻繁にケーキを買っている家庭だと、特別な日の幸せは感じられなくなってしまいます。
休日の度に外食をして焼き肉やお寿司を食べている家庭だと、特別な日のご馳走が無くなってしまいます。
金持ちの家の子供が高級マスクメロンを食べても、脳内に大した幸せホルモンが分泌されないかも知れませんが、質素な家庭の子供が誕生日で一年ぶりにメロンを食べると、格安メロンでも脳内に幸せホルモンが大量に分泌されるような事です。
「舌が肥える」というのは、この線引きをどんどん引き上げていくことになるので、幸せを感じる機会が減るだけでなく、コントロールまで難しくなってしまいます。
最高に当たり年の高級ワインの味を知っている人ほど、他のワインでは満足する事ができません。常に比較して不満を感じてしまいます。
一方で舌を肥えさせないように線引きをしてコントロールしている人だと、ここぞという時にコンビニで買った500円のワインでも美味しく飲めて幸せを感じることが出来ます。
舌が肥えるほどに不幸(不満)が増えるだけでなく、コントロールすら出来なくなるので、生活に欠かせない衣食住ほど、ほどほどに線引きした方が良いと思います。
趣味の世界のものであれば、仮に経済的に難しくなっても楽しみが減るだけですが、衣食住のようなものをコントロールできなくなってしまうと、ひたすら辛い日々になってしまうので気をつけてください。
まとめ 幸せを熟成させる技術
しばしば節約をしている人に対して、
「あんなに我慢して節約して何が楽しくて生きているんだろう?」
といったような意見がありますが、自分なりの基準で明確に線引きをしてコントロールしている節約家ほど、ここぞという時に大きな幸せを感じているものです。
ラーメン好きが毎週食べているラーメンより、年に一度ぐらいしかラーメンを食べない人の方が、ずっと幸せを感じているかも知れません。
毎食腹いっぱい食べている太っている人より、一日一食の人の方が食事による幸せホルモンが分泌されているものです。
生活に欠かせない分野で安易に舌を肥えさせてしまうと、幸せを感じる頻度が下がり、コントロールも難しくなってしまいます。
いつでも味わえる幸せでも、あえて取っておくことで熟成され、より大きな幸せ感をもたらせてくれるものです。
大好きな音楽をスマホに入れてどこでも聴いていると、直ぐに飽きてしまうものですが、好きだった音楽が数年ぶりにラジオや有線などで聞こえてくると、一気に心が弾むものです。
一杯目のビールと五杯目のビールでは満足度がまるで違うように、全く同じものでも幸せを感じる度合いは変化します。
必ずしも舌が肥えることが悪いというわけではないのですが、衣食住のような生活に直結する対象に対しては、あえて舌を肥えさせないという意識を持つことで、ここぞという大切なタイミングで幸せが得られやすくなります。
ディズニーランドが大好きだからと近くに引っ越して年間パスポートを購入して頻繁に通うようになると、たまに新しいアトラクションが誕生した時だけしか楽しめなくなってしまうかも知れません。
一方で数年に一度のディズニーランドを楽しみにしている人だと、新しいアトラクションの数も増えていますし、それほど行列が出来ていない不人気のアトラクションでも楽しめるものです。
あえて舌を肥えさせないようにコントロールしていると、不満が熟成されて高まっていくので、それほどお金を掛けずとも最高に幸せな脳内ホルモンが分泌されるようになります。
積極的に幸せを求めいると、どんどん舌が肥えて満足できるハードルが上がってしまい、時間もお金も手間もかけて本気で立ち向かわないと飛び越えられなくなってしまいますが、幸せを遠ざけていると勝手にハードルが下がっていくので、思い立った時にパッと飛び越えられるようになるものです。
私は携帯電話にこだわりがないので、買い替える時は一番安いものを選んでいるのですが、間が4~5年ぐらいあるので、とんでもなく進化していて毎回感動してしまいます。
毎年のように最新スマホに買い替えている人ほど、「あの機能は前の方が良かった」「この機能が使いにくくなった」といった不満を感じるものですが、私は特に期待をしていないだけに不満など一切感じませんし、ひたすら「へぇ~こんな事も出来るんだ!」と感動してしまいます。
期待していなくても勝手に近づいてくる幸せがあるので、あえて近づかないのも悪くないですよ。
舌が肥えるほどに不満を感じる対象まで増えてしまうので、日頃からほどほどにコントロールするように意識してみてください。こだわりのある趣味の世界のものであれば良いとは思いますが、衣食住のように生活に欠かせない分野で舌が肥えてしまうと、不満ばかりが増えてしまうので気をつけてほしいと思います。
コメント
洋服なんかもそうだよね。昔は安い服は直ぐにダメになったけど、最近のはそれなりに丈夫で長持ちするものばかりになった。
流行のファッションだからといって似合っているとも限らんし、ユニクロの服でもオシャレに見える人もいるし、自分に似合う洋服の色やデザインと向き合う方が大事だと思う。
コンビニ弁当を食べて貧しい気持ちになる人より、美味しいって感じる人の方が絶対に幸せだよね。
あえて舌を肥えさせないという視点はすごく勉強になりました。
by 匿名
これ分かるわー
ラーメン好きの奴と行くと不満ばっかりだもん
俺は十分美味しいのにイヤになる
行列に並ばないと上手いラーメンが食えないなんて不幸だよ
by 32代目モゴ
うーん…その束の間の幸せの為に日常的に我慢するのは幸せじゃないと思うから程々が大事だよね。コンビニが美味しいのは良かったねって思うけど身体に良いかはまた違うからね。
by 匿名